現在、日本の実写映画の興行収入トップクラスは約80億円である。そこから配給・劇場・プリント・宣伝費などを除いて制作者側に配分される収入は興行収入の約1/4、約20億円程度である。このことから逆算すれば、日本映画の制作費の予算規模は20億円が限界と考えなければならず、そこからVFXやCG合成などに振り向けられる予算は1億円にも満たない。一方、ハリウッド映画では、制作費自体が200億円から300億円のものもあり、その潤沢な制作費のおかげで、VFXやCG合成に投下される金額は約50億円にもなる。単純に比較すればVFXやCG合成にはハリウッドの50分の1の予算しかかけられないのが日本映画の現状である。我が国のVFXはこのような低予算と厳しいスケジュールのなかでの制作を余儀なくされているが、その技術レベルは非常に高く、世界に引けをとってはいない。
こうした現実の中でハリウッド映画のVFXを凌駕するには、個々の設備や技術、優秀なクリエイターや技術者を有機的に結びつけることによって、設備・費用・労力・時間といったコストを低減させながら、最先端映像技術を駆使したデジタル映画制作ができる日本独自の新しいノウハウとシステムの創出が必要不可欠となる。
こうした背景を踏まえ、本研究は、本学における、システム設計、セキュリティおよびネットワーク技術、特に実際の映画制作、デジタル合成技術、立体映像技術、の活用研究をもとに、産業界、地域団体や自治体と連携、実際の映画制作現場における実証実験を通じて、成果物がそのまま公開映画作品および最先端映像分野において活用されることを意図、企画するものである。
結果、本庄にある早稲田大学芸術科学センターを中心に、産業界や地域自治体などと連携、最先端映像制作とその保護・活用に資する日本独自のワークフローを形成、国際的に通用する映像制作手法として、本庄市および芸術科学センターを、日本のデジタルシネマ・最先端映像の発信基地に育て、あわせて、次世代を担う人材育成と、映像による町づくりの活動により地域の活性化を図ることを目的とする。
将来は、北京電影学院など海外との連携も視野に入れたい。
今日、撮影からポストプロダクションまで、様々な映画制作手法のデジタル化が進んでいるが、一方で、国内の映画制作会社、放送業界などでは、デジタル化による映画制作手法の改革の必要性を認識しつつも、一作ごとの完結した事業計画によりすすめられる風潮から、また、高価な設備を映画一作で占有できるほどの潤沢な資金をかけられないことから、フルデジタル化による映画制作手法の実業的な研究活動がなされていないのが実情であり、ハリウッドに遅れをとっている。
本研究では、これらの個々の設備、技術を有機的に結びつけて、国内の、ひいては世界のどの場所からでも、本庄の芸術科学センターの総合デジタル合成・編集室を中心に、相互にアクセスできることで、設備、費用、労力、時間といったコストを低減しながら最先端映像技術を駆使した映像制作が出来るシステムの研究を行う。
その際、実際の映画や映像制作の撮影・特殊合成・編集などを自治体、産業団体との連携で本庄市に誘致することで、市民を巻き込んでの地場映像産業の育成、人材育成、地域活性化をもたらす。
・光ファイバー回線を介して、無歪みの超高精細映像素材データをポストプロダクション現場へ送信する手法を検討し、実際の映画の撮影からポストプロダクションに至る過程にて実証する。
・また、立体映像技術、バーチャルリアリティ技術とVFX技術を統合した合成・再生処理手法を検討し、デジタルシネマにおける新たな映像制作技法を開発し、実際の映画の特殊映像合成編集にて実証する。
・送信、配信その他映像マネージメントのセキュリティーについて管理・実証する。
・自治体、フィルムコミッションなどとの連携を通して、市民を巻き込んでの地場映像産業の育成、人材育成、地域活性化について実施する。
ネットワークシステムを活用したデジタル合成映像、立体映像などの新しい映像を開発し、成果物がそのまま映画・映像作品の一部として公開活用される。それらに、地場映像産業、市民、学生が参加することで、地域が活性化し、映像人材が育成される。

具体的にはBフレッツ回線を3本束ねることによって、安価に効率的に映像制作拠点のネットワークを作ることに成功している。Bフレッツ回線を使用することで、コストが抑えられ、規模の小さなプロダクションでも容易に参加できることから、様々なプロダクション、優秀なクリエイターや技術者の独自の能力が結集され、日本映画全体のクオリティを上げることにつながっている。すでに早稲田大学芸術科学センター、東宝スタジオ、東京現像所、IMAGICA、マリンポスト、モーターライズ、オムニバスジャパンの計7カ所が閉域ネットワークで結ばれているが、それらの相互間において、プロジェクトごとに閉域ネットワークが組み立てられる特徴を生かし、東宝ばかりではなく、松竹や東映、テレビジョン各社にもネットワークへの参加を呼び掛けている。
また、Bフレッツ回線に固執せず、今後は、NGN回線を利用した閉域ネットワークシステムを視野に入れ、より安価で安全、迅速な配信が望めるネットワークシステムの構築に研究目標を発展させていく計画である。
さらに、日本独特の特撮技術、ミニチュアテクニック、スクリーンプロセス技術などを見直し、最先端のCG技術や合成技術と結びつけ、また、それらを統合するための新しい技術を開発して、より安価で質の高い日本独特の先端映像技術を確立することも、実証実験がなされている。
これまで培われてきた日本独特の特撮技術に、最先端の技術としての次世代コンテンツ配信、メタバースにおける新しい立体映像表現、高精細CG、先端映像統合制作のためのより高度なネットワークシステム、ノンブルーバックにおけるマット信号の自動切り出し・動き追随による合成応用といった技術を組み合わせることによって、日本特有のシステムと日本独自の新しい先端映像が産み出されるものと確信する。