新しいネットワークが急速に世の中に拡大、浸透していく中で、コンテンツ配信の環境も大きな変化を見せている。こうした新しいコンテンツ配信の環境の中で、今後どのような技術が必要になってくるのか、というのが我々の研究テーマである。
最初に、過去10年に何が起き、今後10年でどんなことが起こるのかを、コンテンツ配信という観点から概括する。過去に遡ると、MPEGの技術の進歩や、携帯電話の爆発的な拡大、またYouTube、Second Life、Skypeの開始などが挙げられる。今後の10年に関しては予測が困難なことも多いが、例を挙げればインテルが32nmのCPUの量産を開始することや、携帯電話のネットワークにおけるスーパー3G、あるいは4Gといわれるネットワークが出来上がること、また日本ではアナログ放送の終了が2011年に予定されていること、などがわかっている。電通の予測では、インターネット広告の伸びが間もなく新聞を抜くだろうということであるが、このインターネット広告の急速で力強い伸びから予測すれば、何年後かにはテレビをも追い抜くことは間違いないと思われる。当然のことながら広告主は消費者がどの媒体を一番見ているのかということに注目しており、露出の高い媒体に広告を集中させようとする。そのため広告の売上高はそのメディアの注目度を表す一種のバロメータとなっている。現実に携帯電話からの広告収入が急激に伸びており、今やインターネットだけではなく携帯電話から数多くの広告が発信されている。このことは言い換えると、インターネットや携帯電話でコンテンツ(情報)が大量に流通しているということであり、インターネットや携帯電話のメディアとしての露出度が急激に拡大している、という何よりの証拠である。


それでは21世紀のコンテンツ流通環境は今後どのような変化をみせていくのであろうか。変化のトレンドは大きく分ければ次の3点に要約される。
第1は、「素材利用ニーズとしてのコンテンツの増加」である。例を挙げれば、Mash-upという制作方法、CGM (Consumer Generated Media)、UCC (User Created Content)という新しいコンテンツの制作と消費形態が登場している。ここで非常に重要なポイントは、そのコンテンツが安心して自由に共有・利用できるものかどうか、その保証はあるのかということである。現在インターネット上のコンテンツのほとんどは権利が明らかになっていない。従って、権利が明らかになっていないものについては、法律上の著作権がそのまま当てはまるということであり、基本的にはどれも使用できないということである。しかし実際には、こうした中に使用の許可があるものも混在している。このような状況の中で、Copyright、Copyleft、Creative Commons、またBBCがやっているCreative Archiveといったライセンス形態の多様化の流れが加速しており、現在、ニコニコ動画やYouTubeもユーザーに映像編集を許したサービスを行っている。
第2は、「制作形態の変化」である。これは、Web 2.0で終わりのないソフトウェアとして周知のもので、ソフトウェアやサービスがいつまでもベータ版であるのと同様に、コンテンツも、終わりがなくいつまでも共有され発展していくものであっても構わない、という考え方である。現実には、商用映画のようにいわゆる「完パケ」といわれる形で流通するコンテンツも存在するが、Wikipediaやオンラインゲームのようにエンドレスに発展し続けるコンテンツという形態も既に存在している。
第3は、「流通形態の変化と多様化」である。従来の制作者からの一方向的な流通、いわゆる垂直方向のバーティカルマーケットだけではなく、利用者から制作者への流通という逆の垂直方向の流れや、B2B、B2C、C2B、C2Cのように、縦横さまざまな方向の流通形態の広がりが誕生してきている。これまでのようなバーティカルマーケットだけではなく、誰もが制作が出来る、誰もが流通に携われる環境の出現こそ、21世紀の流通形態であろう。
こうした新しいコンテンツの流れを我々は「コンテンツ循環」と呼んでおり、コンテンツ流通の環境変化が進行する中で、一体どのような技術が必要とされてくるのか、というのが我々の研究テーマである。