グローバルネットワークを活用した高精細CG映像 Digital Cosmic Zoom

坂井滋和 教授  早稲田大学 国際情報通信研究センター
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1968年の画期的な映像作品『Cosmic Zoom』

私の専門はコンピュータ・グラフィック映像の制作で、長年NHKの大型科学番組でコンピュータ・グラフィック映像を制作に携わってきた。インターネット上にあるさまざまなコンテンツの元となる科学的なデータを使用すると、ここで紹介するようなコンピュータ・グラフィック映像も実はラップトップ、ノートPCで制作することができる、というのが今回の研究発表の要旨である。

『Cosmic Zoom』という映像作品をご存じだろうか。1968年、アポロが月面着陸に成功し、人類の関心が急速に宇宙に向かっていた頃、宇宙をテーマとした映像でこの時代を代表する二つの芸術的作品が生まれている。その一つが『Cosmic Zoom』である。これはカナダのエヴァ・スザッツの作品だが、当時からカナダではナショナル・フィルム・ボードという政府主導の映像作家の育成システムがあり、その援助を受けて制作されたものである。湖(実際には五大湖から流れ出す河)の上にゆらゆらと小舟が揺れているところから作品がスタートする。そこからカメラがハイスピードで遠ざかっていくと丸い地球が見え、さらに遠ざかると銀河が現れ、それがやがて大銀河なり、銀河の大構造までが見えてくる。そして今度は逆にそこからカメラが急速に船に近寄っていき、中に乗っている人間の手の平の指の皮膚の中まで入っていく。そして最後には体内の分子が見えてくる。当時はまだ分子構造などが詳しく解明されるほど科学が発達していなかったので、この映像を見ることで、この時代の科学の水準を推測することもできる。このようなスケール感を持って表現された科学的な映像である。

『Cosmic Zoom』を現代の科学技術を使ってリメイクする

この『Cosmic Zoom』を、現代の科学技術を使って正確にリメイクしたらどのようなものが出来上がるだろうか、ということが我々の研究課題である。写実的な表現とスムースな動きというのは、もともとコンピュータ・グラフィックスが得意な分野なので、その特性を活かしつつ、インターネットを利用して最先端の知識と情報(データ)を入手し、科学的な裏付けを持って正確に作成する、というポリシーのもとに実験を行った。それに加えて、現在はコンピュータの高性能化と低価格化が進んでいるので、ラップトップでの制作を試みた。

実際に映像を制作する際に、1mから1027mまでの範囲をスムースにズーム・バックすることを目標にした。これは距離で言えばおよそ150億光年で、宇宙の起源とされるビッグバンから拡大を続ける宇宙の半径にあたる。この距離をスムースに、繋ぎ目なくシームレスに制作してみようというのが今回の試みである。人間が興味のわかない映像を見続けて我慢できる長さが3、4分程度、ということを前提にして逆算すると、10秒で一桁上がっていくような映像を作る必要がある。そのペースで計算すると全体で270秒、4分30秒の映像になる。

目標1. 科学的な背景を持つ映像

また、科学的な背景を持つ映像を制作するために、航空写真や衛星画像などのデータを集めた。いくつかの有料のデータはインターネット上でオーダーすることは可能だが、無料でダウンロードすることはできない。それ以外のデータに関しては、インターネット環境さえあればダウンロードすることのできるものである。こうしたデータも、映像ではないが、科学的な研究結果という意味で、ひとつのコンテンツと言っていい。例えば、「深宇宙データ」SDSS(Sloan Digital Sky Survey)というのは150億光年の全宇宙をデータ化しようという遠大な計画で、現在1500万個ほどの銀河が三次元の座標データとして固定されている。そうしたデータをダウンロードして、それをもとに映像を作ることができる。

データを拡大・縮小することで10の27乗mまでのズームを可能に

目標2. 1mから10の27乗mまでスムーズに

もうひとつの目標は、1mから1027mまでをスムースに移動することだが、10の0乗から27乗までをひとつのデータとして保持するにはちょっとした工夫が必要で、現在市販されているコンピュータ・グラフィックス用のソフトでは十分に機能しない。そうした背景から、画像の拡大・縮小方法という部分での工夫を考えてみた。通常、映像の制作においては、画像を拡大・縮小するために、カメラのドリー(トラック)イン・バックによる方法か、あるいは画角(Field of View)を変化させる、つまりズームレンズを使用するという方法を用いるが、もうひとつ、コンピュータ・グラフィックならではの方法がある。現実には物のサイズを拡大、縮小することは不可能であるが、コンピュータの中ではデータとして存在するので、数値演算によって対象物を拡大したり縮小したりすることは容易である。従ってそこに地球が映っている場合、カメラが寄ったり引いたりして拡大・縮小させるのではなく、地球そのものを拡大・縮小させるという方法が最も有効である。こうしたやり方で1mから1027mまでのスムースな動きを実現させた。Sc=10(t/10)という式(Scはスケールを、tは時間を表す)、この式自体簡略化した式だが、これに当てはめてズーム比を変えることによって、無限に重ねていっても繋ぎ目が分からない、拡大・縮小していく映像の制作が可能となったのである。